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AI解説の合間に挟む、登場人物のプライベートに踏み込む短編。第5回は 赤崎 健太郎(42)、部長 / AI戦略推進室室長。千葉郊外の一軒家、土曜の朝の 「Saturday Morning Coffee 儀式」ワイン → サウナ → グランピング と渡り歩いてきた流行ファッション熱の、いま最新の現在地。総額 150万円超のコーヒー器具コレクションと、結局毎回手に取る 3,000円のドリッパー。AIは1ミリも出てきません。

07:00 — 千葉郊外、ダイニングのコーヒーコーナー

千葉郊外の一軒家ダイニング、土曜朝の柔らかい光、赤崎が満足げに自分のコーヒー器具棚を眺める

赤崎健太郎 は、土曜の朝、7時に起きていた。

平日の出社は10時半、それでも遅刻ギリギリ、というタイプの男が、土曜だけは7時に起きる。

理由は、ひとつ。

ダイニングの隅にある、自分専用のコーヒーコーナー を、誰にも邪魔されず、ゆっくり、味わうため。

妻は、まだ、2階で寝ている。

赤崎は、パジャマの上に 白いリネンのガウン を羽織って、ダイニングに降りてきた。

そして、3秒、自分のコレクションを、眺めた。

満足、というのとは、少し、違う。

「これを揃えた自分」 を、再確認する儀式、と言った方が、近い。

07:05 — エースの登場、La Marzocco Linea Mini

赤崎は、コーヒーコーナーの中央に鎮座する、La Marzocco Linea Mini の電源を入れた。

イタリア・フィレンツェ製。家庭用エスプレッソマシンの最高峰。820,000円

2024年の冬、グランピングブームが落ち着いて、次の趣味を探していた赤崎が、「自宅で本格エスプレッソが淹れられたら、最高じゃないか」と思いついた、その勢いで購入した。

翌週、家に届いた巨大なダンボールを見て、妻は3秒、無言だった。

赤崎は、本体の銅色の蒸気バルブ を、ゆっくり、磨いた。

毎週、磨いている。

だが、実際に エスプレッソショット を抽出するのは、月に2回くらい、だ。

残りの土曜は、立ち上げて、温まるのを待って、結局使わずに電源を切る、ということもある。

それでも、毎週、磨く。

磨いている時間が、赤崎にとっては、エスプレッソを淹れている時間と、ほぼ同じ価値を、持っていた。

07:15 — グラインダー2台、両方並んでいる

La Marzocco の隣に、グラインダーが、2台、並んでいる。

両方、エスプレッソ用 だ。

本来、1台で、十分だ。

赤崎自身も、それは、分かっている。

ただ、2024年に Eureka を買って、3ヶ月後に 「もっと業務用に近い挽き目が欲しい」 と思って、MAZZER も買った。

結果、Eureka は 「バックアップ」 と称して横に並んでいる

使うのは、ほぼ MAZZER だ。Eureka は、月に1度、ホコリを払うだけ、になっている。

これも、妻には、説明していない。

役割が違うんだ、Eureka は朝用、MAZZER は深夜用

と、一度、説明しようとして、自分でも意味が分からなくて、やめた。

07:25 — 焙煎機、Aillio Bullet R1(納戸の主)

ダイニングの奥、納戸の入口に、もう1台、置いてある。

Aillio Bullet R1。デンマーク製、家庭用焙煎機。358,000円

2025年の春、「自家焙煎まで踏み込めば、もう完璧じゃないか」と赤崎が考えて、購入した。

注文時、生豆を 5kg、3種類、同時に発注した。

初回の焙煎は、エチオピア。

赤崎は、説明書を3時間読んで、温度プロファイルをノートに書き写して、火入れした。

結果、シナモンロースト寄りの浅煎り、悪くなかった。

だが、煙が、想像の3倍、出た。

千葉の郊外、隣家との距離は20mあるが、それでも、煙は、漏れる。

翌日、隣家から、丁重な、ご相談 が、あった。

以降、Aillio Bullet R1 は、納戸の入口で、1年、稼働していない

残りの生豆 4.5kg は、真空パックされて、別の納戸に、ある。

賞味期限は、すでに、切れている。

赤崎は、それも、知っている。だが、捨てる踏ん切りが、つかない。

07:35 — 出張用ハンドミル、Comandante C40 MK4

コーヒーコーナーの引き出しの中に、Comandante C40 MK4 が、収まっている。

ドイツ製、手挽きの最高峰、35,000円

購入の口実は、「出張先のホテルで、自分の挽きたて豆を、淹れたい」

当時、赤崎は、月1で大阪と福岡に出張があった。

その出張時に、Comandante と、ハリオの折りたたみドリッパーを、持参するつもりだった。

実際に、持参した回数 = 0回

朝、ミルを回す時間、ないわ」と、初回の朝、ホテルで気づいた。

以降、Comandante は、引き出しの中で、新品同然 のまま、待機している。

赤崎は、月1度、Comandante を引き出しから出して、ハンドルを5回、回す。

動作確認」と称している。

07:42 — ケトル、Fellow Stagg EKG

シンクの横に、Fellow Stagg EKG が、置かれている。

米サンフランシスコ製、温度設定 0.1℃刻みの、デザイン家電。26,500円

赤崎は、これで、湯温を 92.0℃ に、設定する。

毎回、92.0℃。

本当は、豆の焙煎度に応じて、87℃〜95℃で変えるのが、推奨されている。

赤崎は、それも知っている。記事を、3本、読んだ。

だが、結局、毎回、92.0℃ に、設定する。

91℃と93℃の違いを、僕の舌で識別できる気が、しない

と、一度、独り言で、つぶやいて、それ以降、92.0℃ に固定した。

それでも、Fellow のデザインは、気に入っている。シンクの横にあるだけで、「カフェの厨房っぽい雰囲気」 が、出る。

赤崎にとっては、それが、26,500円分の、価値だった。

07:50 — 結局、毎回これを手に取る

赤崎が満足げにHARIO V60で湯を注ぐ、背景に高級エスプレッソマシンとグラインダー2台が並ぶ、対比

そして、赤崎は、コレクションの中から、最後に、1つを、選んだ。

HARIO V60 02 透過ドリッパー(プラスチック)

東京・日本橋製、コーヒー器具の世界的ベストセラー。1,210円

セットで、HARIO V60 サーバー(2,860円)と 無漂白ペーパー(440円)。

赤崎は、ペーパーをセットし、湯通しをし、MAZZER で挽いた豆 18g を、ドリッパーに入れた。

そして、Fellow EKG で 92.0℃ に温めた湯を、ゆっくり、円を描いて、注いだ。

30秒蒸らし、3投に分けて、合計 280g。

豆は、近所のスーパー成城石井 で買った、「カルディ オリジナル ブレンド 中煎り」798円(200g)

サーバーに落ちた液体は、いつも通り、美味しかった。

赤崎は、3秒、それを、味わった。

うん、これだな

誰にも聞こえない、小さな声で。

背後では、La Marzocco Linea Mini が、立ち上がったまま、空運転していた。

結局、今日も、エスプレッソは、淹れない。

08:10 — 妻、起きてくる

2階から、妻が、降りてきた。

パジャマのまま、髪を、適当にまとめている。

赤崎は、Hario V60 で淹れたコーヒーを、妻のマグカップにも、注いだ。

妻は、3秒、それを、見た。

そして、こう言った。

結局、いつものハリオじゃん

赤崎は、3秒、無言だった。

そして、こう答えた。

シンプルが、一番、なんだよ

背後の La Marzocco、MAZZER、Eureka、納戸の Aillio、引き出しの Comandante、シンクの Fellow EKG、合計 1,529,710円 が、無言で、その光景を、見ていた。

妻は、軽く、ため息をついた。

そして、こう言った。

ねぇ、次は、何を買うつもりなの

赤崎は、3秒、考えた。

実は、ブックマークしてある、ものが、ある。

BIALETTI ブリッカ 4cup(イタリア製モカポット、6,800円)。

モカポット、いいよね、エスプレッソマシンと違って、直火で、シンプルで…

と、つぶやきかけて、やめた。

妻に、これ以上、ため息をつかせる、わけにはいかない。

赤崎は、こう、ごまかした。

いやー、もう、十分だね、いまの構成で

妻は、3秒、赤崎を、見た。

そして、何も言わずに、自分のマグカップを持って、ソファに、移動した。

08:30 — コレクション全景、再確認

赤崎は、もう一度、コーヒーコーナーの前に、立った。

そして、ノートを取り出して、本日の 「稼働実績」 を、こっそり、書き込んだ。

器具 価格 本日稼働
La Marzocco Linea Mini ¥820,000 空運転のみ
MAZZER MINI(グラインダー) ¥185,000 18g 1回
Eureka Mignon Specialità ¥105,000 ホコリ払い
Aillio Bullet R1(焙煎機) ¥358,000 納戸で待機
Comandante C40 MK4(手挽き) ¥35,000 引き出しで待機
Fellow Stagg EKG(ケトル) ¥26,500 92.0℃に設定
HARIO V60 + サーバー + ペーパー ¥4,510 本日のエース

本日のエース、1,210円のプラスチックドリッパー

合計コレクション総額、¥1,533,510

そのうち、本日、本当に役立った器具の総額、¥190,720(MAZZER + V60 + サーバー + ペーパー + Fellow EKG)。

稼働率、約 12.4%

赤崎は、その数字を、ノートに書いて、3秒、見た。

そして、ノートを閉じた。

来月は、もっと使う

と、独り言で、つぶやいた。

来月も、たぶん、同じ独り言を、言うことになる。

それでも、来月の土曜の朝、赤崎は、また、白いリネンのガウンを羽織って、ダイニングに降りてくる。

月曜の朝、AI戦略推進室の朝会

月曜朝の会議室で赤崎がコンビニアイスコーヒーを片手に

月曜の朝、赤崎は、AI戦略推進室の朝会に、いた。

手には、コンビニで買った、セブンイレブンのアイスコーヒー(R)、110円

凡田が、案件の進捗を報告している最中、赤崎は、ふと、こう言った。

あ、ところでみんな、僕、最近は、ハンドドリップ派なんだよね。シンプルが一番だよ、本当に。器具にこだわるより、豆と、湯温と、注ぎ方

凡田は、3秒、無言だった。

(赤崎部長、急に、何の話を、始めたんだろう…)

川口は、3秒、ノートを取った。

赤崎部長: ハンドドリップ派、豆 / 湯温 / 注ぎ方」と、議事録に、書いた。

赤崎は、満足そうに、セブンのアイスコーヒー を、一口、飲んだ。

誰も、千葉の納戸に、Aillio Bullet R1 が、1年、眠っていることを、知らない。

誰も、シンクの横に、26,500円のケトル が、毎日92.0℃で空焚きされていることを、知らない。

赤崎は、それで、十分だった。