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AI解説の合間に挟む、登場人物のプライベートに踏み込む短編。第3回は 大蔵 涼子(35) が、月1の京都遠征で鞍馬寺を訪れる、ある日曜日の物語。美容Instagramフォロワー2,800人 の裏側に隠した、彼女のもうひとつの精神性について。AIは1ミリも出てきません。

06:30 — 東京駅、新幹線のぞみ7号

早朝の新幹線車内、大蔵が窓側の席で御朱印帳を膝に置き、外は朝焼け

大蔵は、東京駅 16番ホームに、6時20分に着いていた。

6時33分発、のぞみ7号、新大阪行き。窓側の席、E列、いつもの位置だ。

キャリーケース は、小さい。1泊しないから。

バッグの中身は、いつもと違う。

新幹線が動き出した。

大蔵は、ふと、窓の外を見た。

朝焼けが、ビルの間から、ゆっくり、立ち上がってきていた。

大蔵は、桐の箱から、御朱印帳を取り出した。

5冊目の表紙、紺色の地に金の蓮華。

1ページ目から順に、過去の御朱印 を見ていく。

27ページ分、墨字 が並んでいた。

大蔵は、深く、長く、息を吐いた。

これだけは、Instagram に、上げない。

09:42 — 鞍馬駅、参道入口

京都駅で叡山電鉄に乗り換えて、鞍馬駅 に到着した。

9月の山は、まだ暑い。だが空気が違う。

大蔵は、参道の入口で、3秒、立ち止まった。

大きな 天狗の顔 の像が、出迎えていた。

赤い顔、長い鼻、白い髭。

大蔵は、軽く、頭を下げた。

失礼いたします

誰にも聞こえないように、口の中で。

そして、ハイヒール のクリーム色パンプスで、最初の石段に、足を踏み出した。

10:15 — 鞍馬寺の九十九折参道、中腹

鞍馬寺の山道、大蔵がハイヒールを脱いで手に持ち、白足袋で石段を登る、木漏れ日の中

九十九折参道(つづらおりさんどう)は、急だった。

20分も登ると、大蔵のクリーム色パンプスの中で、足の親指が、しっかり、痛みを訴えていた。

大蔵は、石段の途中で、3秒、立ち止まった。

そして、決断した。

脱ぎますわ

大蔵は、ハイヒールを、右手に、握った。

そして、バッグから、白足袋 を取り出して、履き替えた。

これが、本当の正解 だと、3年で学んでいた。

木漏れ日が、参道に、模様 を作っている。

大蔵は、白足袋で、石段を一歩、踏みしめた。

足の裏に、石の冷たさ、土の柔らかさ が、染み込んでくる。

大蔵は、3秒、目を閉じた。

これですわ

13年の Excel スキル、月20万円の美容代、Instagram の2,800人のフォロワー、年下中途への嫉妬、嫁いだ友人の出産報告。

そういうものが、足の裏の、石の感触と、ゆっくり、入れ替わっていった。

11:00 — 鞍馬寺本殿、参拝

本殿の前に、立った。

1,200年の歴史 が、目の前にあった。

大蔵は、3秒、目を閉じて、合掌した。

願い事は、しなかった。

3年前、初めて来た時には、こう願った。

結婚できますように

2年前は、こう変わった。

仕事が、続けられますように

1年前は、こうだった。

母が、健康でありますように

今年は、何も願わなかった。

ただ、ここに、来られた、ということだけで、十分な気がした。

大蔵は、深く、長く、息を吐いた。

11:30 — 御朱印授与所

本殿の脇の、御朱印授与所に、向かった。

窓口の向こうに、年配の女性 が、座っていた。

大蔵は、御朱印帳を、両手で、差し出した。

5冊目、最後の見開きに、お願いします

女性は、軽く、頷いた。

御朱印帳を、開く。

27ページの墨字 を、3秒、めくった。

そして、最後の見開き を、開いた。

真っ白なページ。

女性は、筆 を取った。

そして、淀みなく、書き上げた。

女性は、墨が乾くまで、3秒、待ってから、御朱印帳を、両手で、差し出した。

大蔵は、両手で、受け取った。

そして、3秒、見つめた。

ありがとうございます

声は、いつもの「あら、私の経験では」モードではなかった。

普通の、35歳の、女性の、声だった。

15:00 — 帰りの新幹線、京都発のぞみ22号

帰路の新幹線、大蔵が御朱印帳を膝に開いて静かに見つめる、窓の外は夕焼け

大蔵は、東京行きののぞみ に乗っていた。

窓側、E列、いつもの位置。

膝の上に、御朱印帳を、開いて、置いていた。

鞍馬山 の墨字が、5冊目の最後の見開き に、収まっていた。

大蔵は、3秒、それを、見つめた。

窓の外、夕焼け が、田んぼの上に、広がっていた。

その時、iPhone が、振動した。

Slackメッセージ。

差出人、凡田

大蔵さん、明日の月次レビュー資料、Excel の数式エラーが3箇所あって、確認お願いできますか?

大蔵は、3秒、見つめた。

そして、こう返信した。

了解、明朝、私が一番に見ます。

送信。

大蔵は、御朱印帳を、そっと、桐の箱に、戻した。

そして、美容アカの予約投稿の確認 をした。

京都和スイーツの写真、3枚、明日朝の予約済。

御朱印帳の写真は、撮ったが、入れていない。

これからも、入れない。

17:30 — 吉祥寺の自宅

大蔵は、実家の、自分の部屋に、入った。

北欧雑貨が並ぶ棚 の、一番奥、北欧の人々が見たら困惑する場所に、桐の箱専用の引き出し があった。

その引き出しを、開けた。

中には、過去の御朱印帳が、4冊、整然と並んでいた。

大蔵は、5冊目を、その隣に、そっと、置いた。

引き出しを、閉じた。

母が、リビングから、声をかけた。

涼子、帰ってきた? ご飯、何にする?

大蔵は、引き出しから、振り返って、答えた。

お母さん、私、お土産に、鞍馬の山椒煮、買ってきましたわよ

声が、いつもの “お局見習い” モードに、戻っていた。

大蔵は、3秒、引き出しの方を、見た。

そして、リビングに、向かった。

その夜、Instagram の予約投稿が、朝7時に、自動で投稿された。

京都女子旅、和スイーツ巡り 第3弾 #京都 #女子旅 #和スイーツ #カフェ巡り

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御朱印帳のことは、誰も、知らない。

大蔵自身も、それで、十分だった。